二階の浴室

昨日は日曜日でした。朝方、いつもの服装で散歩に出かけました。

ある物件の前にさしかかると、その玄関前に営業車と思われる大きなワゴン車が二台停まっています。大きく社名が入った作業服を着た男性が５人、忙しそうに車後部からなにかを降ろしてします。ハデな社名入りのノボリ旗が見えました、物件の構造見学会です。

伏し目がちに彼らの前をソソクサと通り過ぎようとしました。すると男性陣から大きな声で「おはようございまぁす」と挨拶を受けました。仕方なく軽く頭を下げて、「こんな街外れにまで、見に来る人なんかいるのか…」などと、いらぬお節介を考えながら…。

しかししばらくすると、やはりどうしても建物の中が見たくなりました。頃合いをみて途中で引き返し、「あのぉ、スミマセン、少し見せていただけませんか…」と声をかけると、彼らの中で一番若いと思われる男性が素早く近づき、
「ハイッ、いらっしゃいませぇ、どうぞどうぞぉ」と満面の笑みで案内してくれました。

この物件は上棟日からここまで約三週間、屋内は下地材の施工がほぼ終わっていました。内壁と天井部にはグラスウールの断熱材が隙間なく敷き込まれ、床の隅には余った資材がまとめられています。二階へ続く階段はまだありません。
一見したところ、木工事は残すところ床の仕上材と石膏ボードの施工のみでしょう。さすが超大手さん、見学会を控えてとてもキレイに清掃されています。

「けっこう広いお宅ですねぇ」
「ハイ、当社は注文建築ですので、どのような間取りでもお引き受けすることができます」
「これで何坪くらいあるのですか？」
「ハイ、少々お待ちください」と、玄関前で立ち話をしている先輩社員と思われる男性に駆け寄ってすぐに戻り「42坪です」と、これまた笑顔で答えてくれました。
「これはなんですか？」と私が二階部分を指さすと、
「ハイ、浴室です」
「へぇ、このお宅は二階にお風呂があるのですか」
「ハイ、こちらの建て主様は住宅にとてもこだわりのあるご家族様で。浴室から直接二階のベランダに出られるようになっています」
「お若いのですか？」
「ハイ、お子様がまだ小学二年生です」
「二階にお風呂は珍しいですねぇ、ここ写真を撮ってもいいですか？」
「ハイ、どうぞどうぞ」と、その時の撮影です。

上部に金属製色に見えるのが浴室の床裏です。荷重が直接構造駆体に架かっているわけではなく、二階梁に取り付けられた金物で支えられています。一階天井部に格子状に組まれているのが天井下地材、これを野縁（のぶち）と呼びます。この写真でおわかりでしょうか、この野縁は木材の002でお伝えしましたLVLです。
管柱や二階梁、筋違いなどの主要構造部はすべてロシアアカマツ集成材、目に見える間柱（まばしら）も同材です。典型的な造り手側主導のこだわった住宅です。

「このお風呂、これでお湯を張って下がってこないのですか」
「ハイッ、だいじょうぶです、シッカリ構造計算を行っております」と笑顔でキッパリ。さらに「このお風呂にも建て主様のこだわりがありまして、今回は二階までご案内できないのが残念です。完成見学会も予定していますので、ぜひお越しください」。

ここまで彼から構造に関する説明がなかったので
「この柱はなんという木ですか？」と聞くと、
「ハイ、少々お待ちください」と再度先輩社員に駆け寄ってすぐに戻り「お待たせしました、こちらはすべて集成材です」と笑顔で答えてくれました。
約30分間の説明で、構造や工法に関しての解説はこれだけでした。

もはやこれまでと思い、
「ありがとうございました、とても参考になりました」
「お客様はご近所にお住まいですか？」
「（客ではないけど…）えぇ、いつも散歩でこの前を通りますので」
「お家の建築をお考えでしょうか」
「はい、いずれは…」
「現在では政府の住宅減税などがありまして、たいへんお買い求めやすくなっていますので、ぜひ」「へぇ、そうなんですか、ありがとうございます」
「よろしければ、こちらのアンケートにご記入いただけないでしょうか」
「また近いうちにこちらにお邪魔しますので、その時にでも」
「ハイッ、ありがとうございます」。

この間の来場者は私ひとり、他の男性社員は玄関前で手持ちぶさたです。
帰りがけに「とてもキレイな現場ですね」と声をかけると、
「ハイッ、ありがとうございます、当社は現場管理を徹底して行っています」と笑顔です。私が玄関を出ると、男性５人が揃って「ありがとうございましたぁ」と頭を下げてくれました。「こちらこそありがとうございました、また寄らせてもらいますので」とお礼を言って立ち去りました。

彼らから「よろしければお使いください」とティッシュを一箱いただきました。
とんでもない、もったいなくて使えません。

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