JR東海道線豊橋駅から徒歩約10分、お昼にでんがくと菜めしをいただきました。正午をかなり回っていましたが店内はとても混んでいる様子で、入り口脇の席で待たされました。しばらくすると静かな奥のお座敷に通され、先客が二組ほどいらっしゃいました。
この店のお品書きは「でんがくと菜めし」の一品のみ。あとは酒の肴にちくわとだいこんおろしがある程度です。店の創業は古く文政年間、現在の店主は六代目で店舗は築後120年と聞きました。店の前の通りが旧東海道の吉田宿。江戸の昔、諸大名の参勤交代やお伊勢さんに詣でる人たちでたいへんな賑わいだったろうと想像できます。
そう思うとどこか、池波正太郎の小説にでも入り込んでしまったかのような気分にさせられます。あの長谷川平蔵も幾度か京へ上洛しました。道中この店に立ち寄り「冷やで一本」という場面も絵になります。
その街道を上り下りする旅人たちを相手に商売したこの一品料理。
逆に考えると、その賑わいの多さが故に、この一品しか用意できなかったのかもしれません。
関東人の私にも素朴で飽きのこない味付けでした。二百年間変わらぬ場所で変わらぬ味での一品勝負、同じ商売人としてとても憧れます。